のむさん
ITサービス企業に勤務。エンジニアとしてキャリアスタートし、2度の転職を経て、現在はプロダクトマネージャー兼管理職。 国籍、レイヤー、立場が異なるステークホルダーたちと業務遂行するが、実はコミュニケーションが大の苦手。 積年の悩みだったコミュ障脱却のためコーチングを学び始めるが、想像以上にどっぷりハマって仕事にプライベートに活用中。

コーチングへの道:技術者から人材育成へ

——これまでのご経歴について教えてください。

私はシステムエンジニアとしてキャリアをスタートしています。 9年間エンジニアとして働いた後、転職を機にプロジェクトマネジメントやプロダクトマネジメント、いわゆるPMの仕事にシフトしました。そのPMの仕事が約6年間続き、現在はPMに加えて管理職としてヒューマンマネジメントも手掛け始めて半年くらいです。

——コーチングとの一番最初の出会いや、当時のコーチングに対する印象を教えていただけますか?

私は元々、THE COACH創業者であるこばかなさんのフォロワーで、こばかなさんがコーチングについてツイートされている内容を見て、面白そうだと思っていました。そのこばかなさんがコーチングスクールを開講するとの情報があり、興味を持ち始めました。

実は私、長年コミュニケーションに関する悩みがあり、人と話すのが非常に苦手でした。自分が話したいことが特になく、会話に困ることが多かったんです。ただ、コーチングは、問いをわたすことによって相手から新たな気づきを引き出し、自分が特に何も提供していなくても、相手の中から良いものが出てくることによって満足度の高いコミュニケーションが生まれると聞き、これは話し下手な自分にとって必要なスキルだと感じて学びたいと思いました。

——受講を決めた一番のきっかけは何でしたか?

一番大きな決め手になったのは、自分がコーチングを知るきっかけになった、こばかなさんが始められたスクールであったことです。また、他のスクールと比べて料金が安く、完全オンラインだったので、自宅からいつでも受講できるという点が魅力的でした。

——実際にコースを受けてみて、何か気づきや感想はありましたか?

最初の大きな気づきは、人と人とのコミュニケーションの本質についてでした。基礎コースで最初に学ぶ「クライアントへの好奇心」は、特に印象的でしたね。相手に好奇心を持つだけで、コミュニケーションが楽しくなり、その質が上がるという発見に、本当に驚きました。

実は、高校生の時に一時的に精神的な問題に苦しんでいて、その結果、人と話すことがとても怖くなってしまったんです。その頃から、人と話す時に最も大切なことは、「その環境における正解を言うこと」だと思い込んでいました。そのため、人が何を考えているかや私が何を考えているかなどにはあまり興味が向かず、場の最適解は何なのかをずっと考えていました。その結果、何も言えなくなり、それが引き金となって一時的に心を病むことになってしまったんです。

精神的な課題は改善しましたが、その後もコミュニケーションの本質、すなわち相手の内面にあるものを聴くことや、好奇心を持つことに気づかないまま、その場に最適な会話を探すことに苦心していました。そのため、コミュニケーションがとても難しく、可能なら避けたいものに感じていました。しかし、30代になってからTHE COACH Academyに参加し、好奇心を持つということを学び、初めてコミュニケーションが面白く、楽しいものだと感じることができたんです。人と人として相互に見合う関係性を築けるようにもなりました。

学びを仕事に活かす。コーチングから得た視点とスキル

——学んだことは実生活やお仕事にどのように活かされていますか?

通常行われる1on1での会話において、特に効果があると感じています。また、ファシリテーションが必要な場やレトロスペクティブ(振り返り活動)にも活きていると実感します。プロジェクトの終了後の振り返りを行い、どんな課題があってどう改善していくかというプロセスの精度が上がったと感じています。

これまでは事柄にフォーカスしていたのが、人間が働く背景を視野に入れることができるようになったからだと思います。例えば、システム開発の現場でバグが起こり、その原因がエンジニアが仕様書をしっかり読まなかったため、というケースがあります。これまでは、「説明資料をちゃんと読もう」という解決策が主流でした。しかし、今では、「説明資料を読めなかった背景」について考えるようになりました。その人がどのような状況や心境であったのか、どのようなタスク状態に置かれていたのかを考えることで、問題の本質的な解決に近づけるようになりました。

コーチングを学んでからは、「直視感知モード」が得意になったと感じます。相手の発した言葉だけに集中するのではなく、全体を見る、つまり空気感や表情などの非言語コミュニケーションを捉えることができるようになりました。これがファシリテーションに非常に活きていて、その場にいる人の言葉だけを拾うのではなく、発言に対する違和感や空気の変化などを敏感に感じ取ることができるようになりました。

発言の途中で表情が変わった人に対して、「ちょっと何か思うところありそうですけど、どうですか?」というように、話を振ることができるようになったんです。それができるようになったおかげで、その場を回すことがだいぶ上達したなと実感しています。

バランスの重要性。コーチングにおける休息とパフォーマンス

——受講中に大変だったエピソードはありますか?

基礎・応用コースの時期はそんなに大変ではなかったのですが、インテグレーション・コースに進むと大変な時期がありました。このコースでは、インプットをするだけではなく、自分もコーチとして活動するので、半年間、本業の仕事と並行する形になるんです。その途中で仕事が非常に忙しくなって、コーチングの時間を確保するのが難しくなりました。

もっと厳しいのは、自分が疲労していたり、ストレスがかかっている時にコーチングセッションができないと感じることでした。特にインテグレーション・コースでは実践が求められますが、自分のパフォーマンスが全然出せないことがあり、クライアント役の方に申し訳ないと思うことが多かったんです。外的要因やストレスがコーチングマインドを鈍らせていたんだと思います。

疲れていると頭も回らなくなり、相手にフォーカスすることができなくて、意識が自分自身に向かってしまいます。コーチングでは相手の表情の変化を見たり、発せられるエネルギーを受け取ることが大切なのですが、その感覚も失われてしまうんです。疲労がパフォーマンスに及ぼす影響を、コーチングを通じてありありと実感できました。

コース期間中、大変ではありましたが、同時に大きな学びでもありました。クライアントとして、コーチングを受ける分には全然問題ないのですが、自分がコーチとしてセッションを行うとなると大きな支障が出ました。仕事が忙しくなるタイミングでコーチとしてセッションングを行うことが私にとっては難しいことなんだと気づけました。

ただ、その当時は仕事が忙しくても、なんとか両立させようともがいていました。改善しようとしたのですが、うまくいかなくて。どうしたらいいかとセルフコーチングする中で、自分に休息が足りていないことが原因だと気がついたんです。疲労を溜めないように、またストレスがたまらないように、しっかり休息を取ることを心掛けるようになりました。結果的に、コーチ役でのコーチングセッションもしっかりできるようになり、また仕事のパフォーマンスにも良い影響が出ました。

——休むことも一つの仕事だと言いますが、その意味を痛感されたのですね。

そうなんです。私も「休むのも仕事のうち」という言葉の意味は頭では理解していましたが、実感として理解することはありませんでした。

実際、通常の仕事やルーチンワークは忙しくてもなんとなくこなしてしまいますよね。その時のパフォーマンスがどれくらいのレベルにあるのかを自覚することは難しいものです。でも、100点や120点のパフォーマンスを出すためには、休息も大切なのです。

コーチングを学ぶ中で、頭だけではなく、実感として休息の重要性を理解できたこともとても大きな学びでしたね。

インテグレーションコースを通じた”自分らしいコーチング像”の確立

——受講中で印象的だったエピソードを教えてください。

印象的だったのはインテグレーション・コースのことですね。インテグレーション・コースに参加する受講生は、すでにコーチングについて学び、コーチングマインドを身につけている状態で参加します。最初のうちは、コーチングのスタイルがそれぞれ違っていても、出てくる問いや姿勢などはどことなく似ているなと感じていました。

ただ、インテグレーション・コースを進めるうちに、それぞれの受講生がプロのコーチからアドバイスをもらったり、自分らしいコーチングのスタイルを引き出すためのトライポッド(3人一組でのコーチング練習)を経験して、徐々にその人らしさが加わっていきました。

コースを終える頃には、「この人のコーチングはこんな感じだよね」「この人はこうだよね」、「この人はまた違ってこうだよね」と、受講生それぞれの特徴や個性が明確になる変化があったのです。この変化の過程と最終的に出来上がったコーチングスタイルが、最初と最後で全然違っていたことが、とても印象的でした。それこそが、インテグレーション・コースの価値だと感じました。

——その経験は、のむさんご自身にも影響を与えたのでしょうか?

はい、そう感じました。みな、同じカリキュラムを経ていることもあり、最初は似たコーチングスタイルで、それを受け入れていく過程で自分自身の特徴や個性が徐々に出てきたと感じています。他の受講生からも、「あなたのコーチングはこんな感じだよね」というフィードバックを何人かからもらうようになりました。

特に私の場合は、「直視・感知のモードをめちゃめちゃ使う人」と言われます。つまり、相手から出てくるエネルギーを感じ取るのが得意で、非言語コミュニケーションの部分を強く取り入れるコーチングスタイルを持っているということですね。

コーチングを通じた職場改革:新たな挑戦の始まり

——コーチングを学ぶ過程で他に何か影響を受けたことはありますか?

はい、コーチングを学ぶ中でマインドフルネスについても学ぶ機会がありました。それが自分のメタ認知や客観視能力を向上させることに繋がりました。例えば、マネージャーとしての仕事をする中で、忙しさやイライラから言葉が荒くなってしまうことがありますが、自己理解が深まることでそのような自分自身を客観的に見ることができるようになりました。

自分が大変な状況にあるときでも、メンバーに対して適切なアプローチをすることが増えました。自分を客観的に見ることがストレスのかかる仕事に立ち向かう中で感情をコントロールできるようになった一因だと思います。

——そういった経験をふまえて、現在のむさんがやりたいと考えていること、目指したい姿について教えていただけますか?

はい、私は特にプロコーチとして独立するという考えはありません。今やっている仕事の現場にコーチングで学んだスキルを還元できればいいなと考えています。特に、成人発達理論の学びをきっかけに勉強会を会社で開いています。現場にいるプロダクトマネージャーの皆さんの視座を上げて視野を広げることが課題としてあるからです。

その取り組みの中で、コーチングを学ぶ中で培った問いやファシリテーションスキルを使って、メンバーが学びやすい場を作り、それを業務に還元していくという活動を始めています。その評判が良く、いい感じに進んでいるので、こういった活動をこれからもどんどん広げていけたらいいなと思っています。

コーチングの経験から得られた生きやすさ

——のむさんにとって「コーチングマインド」とはどのようなものだと感じましたか?

そうですね。コーチングマインドを持つことは、その人がありのままで完全であるという観点を持つことだと思います。それは、評価されたり、改善を求められたりすることに対して、自分を傷つけずに対処できるようになることを意味します。特に、仕事をしていると、上司や組織からの評価に影響を受けることが多いです。しかし、コーチングマインドを持つことで、自分自身が否定されているわけではないと理解できます。自分が出しているパフォーマンスや置かれている状況が評価されるだけで、自分自身は評価の対象ではない、ということを理解できます。そうすることで、評価を受けることが楽になります。だからこそ、自分をありのままに受け入れることが重要なんです。その結果、生活が楽になると思います。

——最後に本記事を読んでいただいた方にメッセージをお願いします。

私のメッセージはとてもシンプルです。コーチングを学ぶことで何が得られるのかは、事前にどんなに調べても、受けてみなければわからないということです。ただ、私の経験から言うと、受講料以上の価値が得られたと思っています。コミュニケーションスキルの向上や、自己認識(メタ認知)の向上などは、生きることをずいぶん楽にしてくれました。それが数十万円で手に入ったと思うと、これから何十年もの人生が残っていて、その時間生きることを楽にしてくれたと考えると、この投資は非常に価値があると思います。それを皆さんに伝えたいです。